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2009年05月19日(火)更新

総論 (中小企業の株価の考え方 №4)

≪続き≫

前にも述べましたが、そこで算出された評価がすべてではないと思っています。

相手からみて、高いと思えば高いですし、安いと思うえば安いのです。

とは言っても、ある程度のロジックをもって評価しなければ収拾がつきません。

そこで相手方との交渉をするうえでも基準値が必要となります。そのための評価である

と理解した方がよろしいかと思います。


【M&Aで、売り手と買い手に、株価の開きがあった場合に注意すること】

1. お互い一緒なったあとの青写真が、きちんと描ききれているか。

2. M&A後一緒になったあと、先ず最初に取組むべきことは「何か」を事前に

話しあっているか。できているか。

3. そのうえで、お互いの目指すベクトルが同じ方向であることを確認する。

4. ここまで交渉が進んでくると、普通、どちらかが、妥協してくるものです。

5. それでも株価に開きがあったら、一方的に価格を上げたり下げたりする提案ではなく、

お互いがお互いに敬意を表し、歩み寄りよる気持ちを持たなければなりません。

代替案を出し合って双方で、痛み分けする気持ちが大切です。

6. ビジネスの交渉はフェアであることが原則であると思います。

 ≪ちょっとブレイク≫
上記6は、口でいうほど、簡単なことではありません。私は、「営業に関する基本取引

契約書」を数多く拝見してきました。中小企業が大企業と取引をするとき、私が見る

限りアンフェアな契約形態になっているものが多いです。商売を取るためには致し方

ないことだと思います。しかし、中小企業のM&Aの世界では、資本力のある企業の

意向よりも、オーナーの気持ちを理解してもらうことの方が重要であると考えています。

またそれをコーディネートすることが私の役割だと認識しています。M&Aを成功さ

せるための秘訣です。


【企業評価よりも大事なこと】

今すぐに会社を売らなければならないケースと違い、後継者不在による第三者への

会社譲渡の場合、

株価を議論する前に、ビジネスの話しを何度も双方で話し合うことの方が重要です。

この順番を間違えると、あさっての方向を向いたトンチンカンな議論をすることになります。

当然ですが、経営権の移譲があれば、オーナーの個人保証を解除し、買い手がそ

の保証を肩代わりすることになります。株式の売買だけで、コトが終わるわけではあ

りません。買い手は、包括的に無形の資産を承継することになります。同時にリスク

も継承することになります。そのような条件や交渉を経て、企業本来の価値が決まっ

ていくのではないでしょうか。

「中小企業の株価の考え方」(私自身の経験談より) 終わり。

2009年05月18日(月)更新

企業評価2-2 (中小企業の株価の考え方№3)

≪続き≫

【損益部門での修正事項】  

1. M&Aでは退任する役員と、買い手企業から常勤で派遣される新経営陣の

報酬額を、業界の一般的な水準に訂正しその差額を反映させます。

2. 会社で掛けている役職員保険などは必要なものと、そうでないものを選別。

3. オーナーの意図で恣意的に操作していることがあれば調整。

4. 賃貸収益や配当など本業以外から生まれる収益について、その継続性を検証。

5. 会社の総資産からみた収益を検証。

・ 例えば、借入金も含め総資産が10億円ある企業が一年間に生み出す利益が

5,000万円だったとします。

その一方で、総資産が5億円の企業が生み出す利益は5,000万円だったとします。

・ 同じ5,000万円でも、総資産が小さい企業の方が収益率が高い企業となり、

企業価値も高いことになります。 いわゆる、総資産利益率(ROA)をみます。

上記事項を一つずつ検証していき、実際の収益力を算出します。

次に、その収益を年倍法で、何年にするかを検証しますが、これは業種や、マーケ

ット動向に応じて、その時々で変わってきます。

【検証する主な確認事項】

① ビジネスモデルが、これからの時代にあっているかどうか。

② 取引先の確認(口座の価値や与信状況によっても変わってきます)

③ メーカーの場合は、何と言っても技術の評価だと思います。

・技術力評価のポイントは、たとえどんなに素晴らしい内容のパテントを保有していたとしても、

そこから収益が上がっていなければ評価できないということです。

④ そして、最後に人材(人財)

・ 私の場合、会社や工場を訪問するときに、従業員の働いている姿や挨拶、

トイレチャックなどをすることを心がけています。

以上のようなことをふまえ、総合的に判断して評価します。

この続きは、また次回とします。

2009年05月16日(土)更新

企業評価2-1 (中小企業の株価の考え方№2)

≪続き≫

【結論】

中小企業の株価を評価するとき、幾通りの評価方法があるなかで、

もっとも理にかなっている評価方法が、

時価純資産価額に収益を加算した方式であると思います。

幾通りの評価をやってきたなかで、最終的に辿り着いた私自身の結論です。

例えば、下記B/S(簿価)の会社から相談を受けたとします。

【 資 産 】    【 負 債 】
現預金   50   買掛金      200
売掛金  200
在庫    100  借入金       350
建物    100  【負債合計】    550
設備    100    
土地    200  【資本(純資産)】 210                  
保険積立金 10
【資産合計】760  【負債・資本合計】760

まず、会社に訪問して、財務・決算内容等についてヒアリングをおこないます。

その結果、以下のようなことが判明しました。

・売掛金は全て回収可能であり200で評価

・在庫は、簿価から20%減額し80で評価

・建物は、償却不足もなく100で評価

・設備は、償却不足額が10あり、90で評価

・土地は、含み損があり150で評価

・保険は、現時点の解約返戻金が簿価より多く20で評価

・退職給付引当不足が10あった。

すると修正したB/Sは以下のようになります。

【 資 産 】      【 負 債 】
現預金    50    買掛金      200
売掛金    200    
在庫      80   借入金       350
建物     100   退職給付引当金  10
設備      90   【負債合計】    560
土地     180   
保険積立金 20    【資本(純資産)】  160
【資産合計】 720   【負債・資本合計】 720

210あった簿価純資産が、時価に修正したら160になりました。

したがって、時価純資産価額は160ということになります。

次に、損益を修正します。

オーナー企業は、役員報酬が通常に比べ過分にとっているケース、

逆に、仕事上、赤字をだせないため、殆どとっていないケース、

また、必要以上に保険をかけているケースなど、そのスタイルは様々です。

そこで、適正と思われる水準に置き換えることにより、実際のところ、どれぐらい

儲かっているのかをみる必要があります。

それによって修正された収益が、のれん(営業権)を算出する根拠となります。

このつづきは、また次回とします。

2009年05月14日(木)更新

中小企業の株価の考え方 №1

『中小企業の株価』

中小企業の株価と言えば、通常、類似業種比準価額方式や純資産価額方式

収益還元方式などになりますが、

ここでは、M&A実行時の売買金額の参考として使用される株価

=すなわち“企業価値”のお話しをします。

先ず、“企業価値ってなんでしょう。” 

その1:有形資産と無形資産の価値を総合して評価したもの

収益だけではない。長年培ってきた取引先との信用・ブランド・技術力・又は苦楽を

ともにしてきた優秀な社員(人財)の価値など。

その2:投資業務から生み出すキャッシュフローから判断して評価したもの 

企業全体の収益源(本業と投資融資)が将来生み出すキャッシュフローを現在価値

に直したもの

(注)現在価値とは、将来のキャッシュが、現在のいくらに相当するかを割引して評価

した価値のこと。

ちなみに、土地の価格は「一物五価」といわれています。

では、企業価値は、というと、⇒ 「一物多価」という表現をすることができると思います。

企業価値は、上記、その1の無形資産の価値をどうみるかで、評価が大きく変わって

きます。

同じ企業であっても、“評価する側の見方次第で、価値観が変わる”ということです。

買収する側は、その企業の収益に魅力を感じているのか、それとも、技術力なの

か、人材なのか、取引先なのか、それぞれに思惑があります。

また、経営権の移譲が発生する株式譲渡は、発生しないときの企業評価よりも当然

高くなります。同じ株価にはなりません。

ということは、本来、企業の真の価値を評価するということ自体非常に難しいというこ

とです。

真の価値は、もしかしたらオーナーといえども、だれもわからないと言ったところでし

ょうか。

それじゃ、話が前にすすみません。

問題は、これからです。≪次回へつづく≫

2009年05月12日(火)更新

オーナーが会社を売るとき (枕をぬらした夜)

Q:M&Aで会社を売却したら、従業員はリストラされるでしょうか。



A:会社を譲渡するときの条件として、「従業員の労働条件を変更しない」など、

契約等で縛ることで対応することができます。(通常1年~2年の期間)


このケースでは、この条件を満たしてくれる相手としか交渉しないということに

なります。オーナーは、相手先としてふさわしいか。会社にとって、従業員にとって

メリットがあるか、などを検証することができます。いわゆるシナジーです。



しかしそのような交渉ができるのは、会社の財務体質が良好であること。

利益が出ていること。そしてなにより時間的余裕があることが必要条件となります。


結婚でたとえるならば、適齢期に結婚すること。適齢期を逃したら、えり好みは

できないということでしょうか。



では、「そんな優良企業を譲渡する経営者が、本当にいるのか」と聞く方がいます。

これが以外と多い。この経済環境ですから、以前ほど粗利があるわけではないです

が、立派な会社はあります。


“実は、優良企業であればあるほど、事業承継が難しいということになります。”


人によっては、「何か簿外負債があるのではないか」と疑ったりして。

そういうときは、いくら口で説明してもわかってもらえません。

じゃ、どんな方が、かわってもらえないのかというと、それは、普通のサラリーマン

です。(俗に、普通の人)。


正直、私も、今から20年前の山一證券時代は理解できませんでした。

優良企業に対しては、株式公開による事業承継対策を提案していました。

流行でもありましたし。でも、今の時代、必ずしも株式公開がいいとは限りません。


オーナー経営者が抱えている後継者問題を、オーナー経営者以外の人間が、

巷に出回っている本を、何冊か読んだところで、そう簡単には理解できないのが

現実です。



あるオーナーからこんなことを聞きました。

株式譲渡の調印式の前夜に、創業時からの思い出がフラッシュ・バックしてきた

そうです。創業当時のこと、資金繰りにかけずり回ったこと、楽しかったことなど。

今までの思いが全部、蘇えってきたそうです。


「明日ハンコウ押したら、他人のものになる」と思ったら、

その夜は眠れず、枕をぬらしたそうです。


次回は、中小企業の株価の考え方について説明したいと思います。
e-mail:tsujimatsu.ritsuo@actusadvisory.com

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